Climate Tech VCで半年働いて驚いたこと #1:VCはリスクを減らす仕事だった
Climate Tech VCで働き始めて半年が経ちました。スタートアップやテック企業で長く働いてきた私にとって、VCの世界は想像以上に新鮮で、これまで当たり前だと思っていたことが何度も覆されました。このシリーズでは、その中でも特に印象に残った気づきを紹介したいと思います。
VCはリスクを減らす仕事だった
私が最も驚いたのは、スタートアップとVCでは、リスクに対する向き合い方が一見正反対だったことです。そして、その背景には両者の時間軸の違いがあるのではないかと考えました。
シリコンバレー発のスタートアップで働いていると、リスクを取ることは仕事の一部だという考えが根付いています。例えばDoorDashでは、Bias for Action(まず行動する姿勢)が企業バリューの一つとなっており、ソリューションを素早くローンチし、試して、うまくいかない部分は随時変更していくことが成長の基本戦略となっています。つまり、失敗することで学びを積み重ねるという考えです。実際、DoorDashでは数週間で結果が分かる施策もあります。
これに対してVCは、年金基金や大学基金、企業、富裕層などの投資家(LP:Limited Partner)から預かったお金をスタートアップに投資することで運用しています。一度投資した資金はExitまで基本的に回収できず、投資判断の結果が出るまで最低でも数年かかります。そのため、投資までにどうやってリスクを減らすかが鍵となります。
VCはどうやってリスクを減らしているのか
この半年間で、「VCはこうやってリスクを減らしているのか」と学んだことがいくつかあります。
- 圧倒的な案件数: まず、VCが見るスタートアップの数に驚きました。年間1,000社以上を見て、その中の上位1%程度に投資するという割合なので、スタートアップ側からすると、なかなかの狭き門です。
- ネットワークと専門知識: ここは、ネットワークや専門知識に頼る部分が多いと感じました。私が働いているImpact Science Ventures(ISV)では、国立研究所や研究機関、付属アクセラレーターとのパートナーシップを活用してソーシングを行い、技術・ビジネスの専門知識を持つメンバーの知見によって案件を評価していきます。
- 長期的な信頼関係: 信頼関係が大事だというのも発見でした。私はVCは会社ができてから投資するものだと思っていましたが、実際には、会社を作る前から研究者や起業家と関係を築き、数年かけて見守ることも珍しくありません。例えばISVでは、パートナーシップを持つアクセラレーターやフェローシップの参加者選定から携わり、大きな投資をするまでに1〜2年かけてスタートアップをアドバイス・評価していきます。
以下の2点は、特にハードテックならではだと感じた戦略です。
- 段階的な投資: ISVでは、時間をかけて段階的に投資することでリスクを軽減していきます。ハードテックでは、設備投資など多額の開発資金が必要になるため、VCのお金だけで開発するのではなく、政府助成金を活用して初期の技術リスクを下げるといった方法を取っています。その後、有望なスタートアップには、小規模なプリシード投資から入り、シード、シリーズAと段階的に投資額を増やすことで、リスクを下げていきます。
- コストと利益性への道筋: 私たちの投資領域は、エネルギー・素材・製造・農業など、設備投資が大きく、長い時間軸を持つ産業です。そのため、新しい技術によって既存技術よりもいかにコストを下げられるか、そして利益を出せるかという点を重視します。ソフトウェアのように「ユーザーが増えれば勝ち」ではなく、最終的には既存産業よりも安く作れるか、利益が出るかが重要です。
スタートアップでは、まず行動し、失敗から学びながら前に進む。一方、VCでは、ネットワークを駆使して情報を集め、信頼関係を築き、段階的にリスクを減らしてから投資する。同じイノベーションエコシステムの中にいながら、これほど異なる時間軸とリスクへの向き合い方があることは、私にとって目から鱗でした。この異なる視点を持つプレイヤーが共存しているからこそ、新しい技術や産業が成長していくのだと感じています。
次回は、「VCからの資金調達は、本当に起業家にとってベストなのか?」について書きます。